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ハロッズのVIPロイヤリティ・プログラム‐「By Invitation」

アートとしてのロイヤリティ・プログラム 

漆黒のカードは会長直々の招待状。ハイクラスな会員限定の案内書には、ハロッズの顧客優待プログラムであるBy Invitation (「招待者限定」の意) の会員特典がずらり。ハロッズの本拠地ロンドンで何が起こっているのだろうか。By Invitation は、世界一有名なデパート、ハロッズが同店の高額購入顧客向けに始めた招待会員限定のロイヤリティ・プログラム(顧客優待プログラム)だ。ピータ・レイはさっそくタクシーでナイツブリッジにあるハロッズに向かった。ハロッズのアメリカ人CRM責任者、ローリ・ヴェラに話を聞くためだ。

世界有数の高級ブランド店がロイヤリティ・プログラムを始めるとしたら、「最高級」を基準にするのが得策であり、当然でもあろう。ニーマン・マーカスの「イン・サークル」プログラム*1に多くを負っているとはいえ、ハロッズはBy Invitationを、同店の高額購入顧客である上得意客にとって魅力的で、ハロッズらしいロイヤリティ・プログラムに仕上げることに成功している。

−まずお聞きしたいのですが、なぜ今、ロイヤリティ・プログラムを始めたのですか?

「当店のお得意様に驚き、喜んでいただきたかったのです。12ヶ月前に、CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント=顧客関係管理)の一環として始めました。既存の顧客ベースをよりよく理解し、関係を深める必要があると考えたからです。高級品市場における当店の立場というのは、『全てのものを 全てのお客様へ』というものです」

ハロッズは現在、独立した顧客データベースを18管理しているが、これをCRMシステムとして一つに統合し、購買行動に基づいた顧客認識に焦点をあてた顧客ロイヤリティ・イニシアチブを組み込んだものにしようと考えた。ハロッズ会長のモハメッド・アルファイード氏は、顧客にすばらしいショッピング体験を提供するのがハロッズの使命だと考えている。CRM責任者ヴェラが、wow factor(驚きの要素)と呼ぶものだ。

−新しいロイヤリティ・プログラムは既存の「ハロッズ・アカウント・カード」とどのような関係にありますか?

「アカウント・カードはうまく行ってます。ただ、当店のコア顧客といえるお客様の多くがアカウント・カードを使っていないことがわかったのです。そういう方々は、アカウント・カード以外にいろいろな支払方法を利用しているんですね。」

複数の支払い方法を可能するほか、By Invitation プログラムを他店のサービスから際立たせているのは、それがハロッズが進めているCRMイニシアチブにしっかりと組み込まれている点だ。

「お客様がハロッズというブランドに何を期待されているのかを知りたかったのです。当店が高級ブランドであることを否定するつもりはありません。お客様は、当店が『一味違う』ことを喜ばれるわけですから。いわゆるコア顧客の識別にあたっては、最終購買日、購買頻度、購買金額、ニーズや嗜好などをもとにしました。」

顧客データを洗い直し選出戦略を練るためにコンサルタントを雇い、まず既存のさまざまなデータから同一基準に従って70万の顧客データを抽出した。ヴェラ氏は彼女がoutside in and inside out と表現する、内外関係者をひっくるめたクロス・ファンクショナルなチームを率いてプロジェクトに当たった。

「まず我々は、何が一番重要かを自問自答しました。プロジェクトの立ち上げ当初から従業員による諮問委員会を設立し、プロジェクト・チームへフィードバックをするようにしました。特別会員であることをひけらかすことなく静かに高級品のショッピングを楽しみたいと望む顧客層が何を求めているのか、複雑で微妙なニュアンスまでも理解することが、このプログラムの成功の鍵でしたから。そこで、カスタマー・ジャーニー、いわゆる購買プロセスに焦点をあて、まず、大変ユニークは会員制プログラムであるBy Invitation に参加いただくため、選ばれたお客様だけに好奇心をくすぐる特別なカタログをお送りすることから始めました。」

2002年6月、70万の顧客データから年齢別顧客分析や購買パターンなどをもとに4万7000名の顧客を選ぶ。ハロッズは会長からの直々の招待であるBy Invitation の案内状を送るためだ。この案内状の高級志向テイストはまさにハロッズの哲学を体現したもの。その手触りから、全体の雰囲気、品質、使用されている写真など全てが、手に取った人に「これは他とは一味違う」という第一印象を与えるものになっている。

「科学やテクノロジーはさまざまなことを可能にしますが、選別化を行い、何かを特別な存在にするのはアートなのです。」

このプログラムでは招待客が自動的に会員となるわけではなく、希望する人が自ら入会手続きを取るのだが、その際、会員であることを判別するための支払方法(現金を除く)を三通りまで選べるようになっている。この点がプログラム運営の最初の難関だった。会員顧客が支払い時にBy Invitation のメンバーズカードを提示しなくても会員であることが判るようにしなければならないからだ。

ハロッズでは従業員教育とテクノロジーの両方を活用することでこの問題を解決している。その一環として、入会時に選んだ支払方法から会員であることを判別できるように、4000名を超える従業員がEPOSシステム(電子POSシステム)を使えるようにトレーニングを行った。この方法によって、顧客がわざわざ特別会員であることを示さずとも従業員が会員を識別し、最高の応対で接するという従来どおりのハロッズ流接客が可能になった。

「従業員の協力を得て、会員であるお客様を識別し、特別の配慮をすることで、そのお客様によりよいショッピング経験を提供できるよう心を配りました。従業員が当然のこととして最高のサービスを提供するものだと信頼することで、次にはそれを意識的に、よりお客様重視かつ管理の行き届いたサービスレベルに引き上げることができるのです。」

顧客優待パッケージは堅実なポイント制と、その他の優待イベントやサービス*2といういわばハードとソフトが見事に組み合わされたものとなっている。1ポンドの支払いごとに1ポイントがつき、誕生日とその前一週間の期間はポイントが2倍となる。貯まったポイントを還元し、運転手付の車で高級宝石店ブードル・アンド・ダンソーン のデザインスタジオへ出かけ、同店トップ・デザイナーのレベッカ・ホーキンスの手助けでオリジナルの宝飾品を作り上げたり、ハロッズのベッド・リネン・バイヤーとフィレンツェへ日帰り旅行に行くことができる。他にもクラシック・カーのレースを体験したり、ハロッズの会長アル・ファイード氏がスコットランドに所有する敷地6万5000エーカー(8000万坪弱)もあるバルナガワィン別荘地や、同様に同氏が所有・経営するサッカークラブ、フルハムFCを一日訪問することもできる。

購入額層は4000ドルから8万8000ドルの間で分けられており、最高レベルに達した会員はいわゆる「会長サークル」に入ることになる。ポイントの還元はコールセンターの担当者が電話で、これまでBy Invitation を使ってみた感想や意見などを詳しく聞くことから始まる。会員はまた、専用ウェブサイトにアクセスすることができる。

2002年6月の開始以来、招待客の34パーセントが入会し、現在1万6500人が実際にプログラムを利用している。入会したが実際にはまだ利用していない会員はさらに多数に上る。予測モデルをシステムに組み込む予定であり、各会員に、それぞれが個別の対応を受けている感覚を与えることができるようになる。プログラムは現在、試験的に英国のみで行われているが、ハロッズは将来これを世界的に広めることも視野に入れている。

「これまでのところ、導入過程はたいへんうまくいっていますが、いまでも毎日が勉強です。お客様が求めているものは何かを知ることから始め、それを実現するには何が必要かを探るため、そこから遡っていく形を取りました。それこそが我々がアートと考えるものです。ハロッズはサービスに情熱をもって取り組んでいます。お客様が笑顔でハロッズに戻ってきてくださることが私たちの願いなのです。」

By Invitation は、ブランドのコアバリューに焦点を当て、ニッチな顧客層へ特化してアピールすることにより、飽和状態にある英国のロイヤリティ市場で成功すると思われる。ネクター*3もロイヤリティ・プログラムに乗り出そうとしており、その他大手企業も自社の優良顧客の囲い込みに懸命だ。ロイヤリティ市場は今後ますます、会員数で勝負するマス・プログラムとニッチ・セグメントに特化するプログラムに二極化していくと思われる。そうしたトレンドの中で、どちらにも属さないプログラムは市場から消えていくことになるかもしれない。


*1アメリカの高級百貨店ニーマン・マーカスが1984年に発足させたポイント・カードによる顧客優待システム。

*2ワイン試飲会への招待や、来店時にパーソナル・ショッピング・アドバイザーのサービスを受けられるなど。

*3多くの参加店・企業でポイントが稼げるイギリスの大手ポイントカード。2002年10月に開始。

インタビューは2002年当時のものです。

Peter G Wray

The author is managing director of pgw Ltd. This article was first published by Colloquy, August 2002.

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